EUで進む「バター暴落・チーズ堅調」の価格二極化
現在、ヨーロッパの乳製品市場では、一見すると矛盾した現象が起きています。それは、世界的な生乳生産の安定(もしくは微増)にもかかわらず、特定の製品の価格が大きく下落する一方で、チーズ価格が堅調に推移しているという「価格の二極化」です。
1. EU乳製品市場の「価格の矛盾」とは?
私たちが直面している最新の国際市場の動向を、具体的な製品カテゴリーで見てみます。
下落傾向にある「コモディティ(汎用品)」価格
バターや脱脂粉乳(SMP)といった製品は、市場の需給バランスに非常に敏感な「コモディティ」としての性質が強く、供給が増えれば価格は急速に下落しやすい傾向があります。
特にEU圏内では、生乳をこれらの製品に加工した際の「余剰感」が一部で発生しており、国際相場が不安定化しています。例えば、一部報道では2025年第1四半期にバターの在庫が増加したことが指摘されています¹。価格変動のスピードが速く、プロの仕入れ担当者にとってはリスクが高い製品群と言えます。
堅調さを維持する「チーズ」価格
対照的に、ナチュラルチーズ、特に長期熟成を要する高品質なヨーロッパチーズの価格は、コモディティ製品のような大幅な下落に陥ることなく、高水準で安定していました。
ただし、最近の市場圧力を示す兆候も見られます。一部の市場レポートでは、2025年10月頃にチェダーなどのチーズ価格が、コモディティである全粉乳(WMP)の価格と同水準にまで下落し、市場のストレスを示す異例の事態が報告されています²。
2. なぜチーズだけが「価格に強い」のか?
この価格二極化は、単なる一時的な現象ではなく、チーズが持つ本質的な価値と市場の成熟度に起因する構造的なものです。
① 「価値」が支えるグローバルな需要
チーズ、特にA.O.P(原産地名称保護)やP.D.O(保護原産地呼称)といった認証を持つ製品は、他の乳製品と比較して「代替品が存在しない」独自の価値を持っています。
- 長期熟成による希少性: 数年単位の熟成プロセスが、供給を簡単には増やせない「希少性」を生み出します。
- 文化と物語: 産地の風土、伝統的な製法、生産者の哲学といった「物語」が、価格以上の価値を裏付けます。
日本市場においても、プレミアムおよびスペシャリティチーズへの需要が高まっており、2025年から2035年の間に年平均成長率(CAGR)5.52%の成長が予測されています³。この「価格以上の価値」があるため、世界中の市場で安定した需要があり、価格が崩れにくいのです。
② EU生産者の「生乳の最適配分」戦略
生産者側も賢明な判断を下しています。市場で不安定なバターや脱脂粉乳に生乳を回すよりも、高付加価値で安定した利益が見込める「チーズ」に優先的に生乳を配分する傾向が強まっています。
さらに、EUの酪農供給は、「持続可能性目標(グリーンディール関連規制)」により、乳用牛の頭数が減少し、将来的に生乳価格が世界平均よりも構造的に高くなるという欧州酪農協会(EDA)の予測⁴もあり、この長期的な供給制約がチーズの希少性を高めています。
この価格の二極化は、ヨーロッパの食品に関わる者、仕入れ担当者、そして一般のチーズファンの方々に対し、明確なメッセージを送っています。
結論:変わらない価値を持つものを選ぶ
価格変動が激しいコモディティ製品とは異なり、伝統と希少性に裏打ちされたA.O.P/P.D.Oチーズは、国際市場で安定した需要と高いロイヤリティを維持しています。実際、2024年の実績では、円安傾向にもかかわらず、イタリアのPDO認証チーズの対日輸出は数量ベースで14%も増加しており、日本の消費者の「本物」への強い志向が証明されています⁵。
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- 長期熟成の王様のパルミジャーノ・レッジャーノ。時間だけが作り出せる、深みのある旨味と確かな品質の証です。
- イタリアの家庭では欠かせないグラナ・パダーノ。幅広い料理に使える万能なチーズです。
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情報源(出典):
- AHDB: In Q1 2025 EU butter stocks built while cheese dwindled.
- DairyNews.today: European Dairy Markets Face Pressure as Cheese and Milk Powder Prices Align (2025年10月).
- Spherical Insights & Consulting: Japan Cheese Market Size, Share, Trends, Forecasts to 2035.
- European Dairy Association (EDA): Annual Report 2024/2025 (EU乳価が構造的に世界平均より高くなるという予測).
- Italianfood.net: Italian PDO Cheeses Exports to Japan Soar (2025年3月).
